法人は定款または寄附行為に定められた目的の範囲内で権利を取得し義務を負担することとされているので、法人の代表機関である理事はこの目的の範囲内で代表機関としての行為を行なうことができます。このような理事の行為のことを一般に「職務行為」と呼んでいます(法人の権利能力・行為能力を参照のこと)。
理事の職務行為が問題となるのは、法人が不法に他人に損害を与えた場合(=法人に不法行為責任が発生する場合)です。その際、民法第44条第1項では「理事などの代表機関が職務を行なうにつき他人に加えたる損害は法人が賠償する責任を負う」と規定して、法人が不法行為責任を負うことを明記しています(詳しくは法人の不法行為責任へ)。
しかし、不法に他人に損害を与える行為は、もはや法人の代表機関としての行為には該当しない、と考えることができるため、仮に上記の「職務を行なうにつき」という言葉を厳格に解釈するならば、そもそも理事が不法に他人に損害を与える行為自体が「職務」の範囲から除外されるという問題が生じます。
しかし、それでは法人の不法行為責任が発生するケースは存在しないことになってしまい、法人の不法行為責任を規定した民法第44条第1項が無意味なものとなってしまいます。
そこで判例では、「職務を行なうにつき」という言葉を次のように広く解釈しています。
1.外形上「職務行為」と見える行為は、「職務を行なうにつき」に含める。
2.社会通念上「職務行為に関連する行為」は「職務を行なうにつき」に含める。
このように「職務を行なうにつき」という言葉を広く解釈することにより、法人の不法行為責任が及ぶ範囲を拡大し、法人の不法行為による被害者を救済する対策としています。
なお、職務行為という言葉は、上記の1.と2.を合わせた意味で使用されることがあります。本来職務行為とは、上述のように法人の代表機関の正当な行為のことを指しますが、法人の不法行為責任を論じる場合には、民法第44条第1項が適用されるすべての行為(上記1.と2.)を「職務行為」と呼ぶことが多いので、注意が必要です。